第6戦フランスGPが行なわれたル・マンのパドックで噂が広まり、時が経つにつれて噂からニュースへと替わった。ホルヘ・マルティンが今シーズン限りでアプリリアを離れ、ほかのメーカーからのオファーを受け入れることを、真剣に検討しているという。行き先は? 想像に難くないだろう?

 状況は以下の通り。

 マルティンは昨年アプリリアと2年契約を結んだ際、セーフティネットを張っていた。ノアレのバイクが十分な競争力がなかった場合は、アプリリアから離れるという可能性を残していたのだ。ここでいう『十分な競争力』とは、ドゥカティと互角に戦えるか、少なくとも近いところにいることを指す。

 昨シーズン、アプリリアのRS-GPはマーベリック・ビニャーレスによってオースティンの優勝を手に入れた。アレイシ・エスパロガロも表彰台を争うなど、いい兆しを見せていた。しかしドゥカティの無敵のバイクにつぐグリッドの2番手からノアレのバイクはほぼ最後尾にまで落ちぶれてしまった。

 マルティンがアプリリア離脱を検討しているのは奇妙かもしれない。彼はほとんどバイクに乗れていないからだ。しかし、今季の6戦でアプリリアが達成してきた結果が、彼にこの選択肢を真剣に考えさせるに至った。

 この決断の背景には、別の選択肢があることは明白だ。つまりマルティンはファクトリーのフラッグシップライダーの地位を捨てるような決断はしない。ほかの選択肢がない限りは。

 ヤマハにはファビオ・クアルタラロというフラッグシップライダーが在籍し、ドゥカティにはマルク・マルケスがいる。KTMは信頼できる選択肢とは言えない。アプリリアはあきらめるとすれば、行き先はホンダしかない。ノアレはショックを受けており、2026年末までの契約に固執している。しかし、どんな契約であれ、契約解除条項、いわば『緊急出口』は必ず存在する。この緊急出口は三つの方法で発動できる。

契約に免責条項を盛り込む

紳士協定を締結する

訴訟を起こす

 手続きがどうであれ、ライダーが乗りたくないバイクでレースを強いるのは全く意味がない。これは双方にとって損失となる。

 今後の数週間は、興味深い展開になりそうだ。

(マニュエル・ペチーノ)