久々のスポーツランドSUGOでサイズダウンしたタイヤをテスト

仲間との悲しい別れ

今年は夏まで、本業の都合もあり、レースに参戦できなかった筆者市川拓。2022年から2シーズン、年間1、2戦はスポット参戦していたSUGOロードレースも、今シーズンは参戦を見送りました。そのSUGOで、今年5月に悲しい出来事がありました。

『五十にして立つ』のSUGO編、ライディングスポーツ本誌の不定期連載時に、オープンミニトロフィーのレジェンド的な存在として度々登場していただいた、2ストロークのRZ50に独自のチューニングを施し、SUGOロードレースに参戦を続けていた甲田仁選手が、今年の開幕戦の前日の練習走行で、マシントラブルが原因と思われる転倒で、救急搬送されましたが、帰らぬ人となってしまいました。

2023年のSUGOロードレース最終戦のグリッド上で談笑する甲田仁さんと筆者市川。オープンミニトロフィーのレジェンドだった甲田さんは今年の5月、SUGOで練習走行中に亡くなった

筆者よりもひと回り以上歳上で、温厚な人柄だった甲田さん、SUGOに行くたびに激励され、優しく接していただき、一緒にレースを走るのが大きな楽しみでした。

SUGOを疾走する在りし日の甲田さん。広大なコースに響く、あの2ストロークの快音はもう聞くことができない。心よりご冥福をお祈りします

まだ甲田さんがいなくなったことを受け止められず、そして、年内一度もSUGOを走らないというのは寂しいと思い、11月の8、9日の二日間で開催される、250マシンとミニバイクの耐久レースの前日の、特別スポーツ走行を走るために、GSX-R125を軽ワゴンに積んで北へと向かいました。

たっぷりの走行枠で試したかったこと

耐久レース自体には、エントリーも準備も間に合わず、走ることはできませんが、前日の練習走行は、SUGOライセンスさえあれば、普段のスポーツ走行の倍の時間、50分という枠が3本設定され、たっぷりと走行できます。

そして今回のSUGOの走行では、是非試したいことがありました。

以前からSUGOのオープンミニでは、混走のST150をはじめ、17インチの車両の多くが、タイヤ幅がフロント80、リア115サイズの、細めの前後ダンロップのレーシングラジアルを装着しており、一方ブリヂストンユーザーの市川のライスポ号は、フロントはバイアスのBATTLAX BT-39SSで、タイヤ幅は100。リアはラジアルのBATTLAX RACING R11の140という、かなり太めの組み合わせ(GSX-R125のノーマルは、フロント90/80-17、リア130/70-17)でした。

ライスポ号の通常仕様である幅140サイズのラジアル、BATTLAX RACING R11(140/70R-17)と、今回SUGOでテストする、120サイズのバイアス、BATTLAX BT-39SS。(120/80-17)当たり前だが見た目も細い

これには理由があり、関東ではミニサーキットがメインのライスポ号、ストップ&ゴーが多く、減速からコーナリング時に一気にタイヤに面圧をかける乗り方など、グリップ力の高い太いタイヤがミニサーキットに適しているという事情があり、大は小を兼ねるのではないか? という考えから、太いタイヤのままSUGOを走っていました。

しかし、SUGOのGSX-R125の先輩、千葉選手から「長いストレートや登りもあるSUGOの場合、細いラジアルに比べ、ライスポ号はタイヤサイズが太い分、パワーを食われてスピードの乗りに影響していると思う」と、言われたことがあり、気になっていました。

SUGOの先輩たち。左から千葉さん、小関さん、そして、『あなたのGSX-R見せてください』にも登場してくれた蜂屋さん。各々走りもマシンの仕上がりもすごい。今回はピットの一角を貸していただいた

そこで頼りになるのが、ブリヂストンモーターサイクルタイヤの中村浩士(ひろし)さん。日本中のBSユーザーのために、文字どおり北は北海道から南は九州まで、毎週のように日本中を駆け回り、各サーキットでタイヤサービスを守り、安全と速さのための情報を提供する『赤い守護神』です。

レースシーズン中は毎週、ブリヂストンユーザーのために日本中を駆け回る中村浩士さん。トップライダーが使用するタイヤはもちろん、ローカルレースの参加選手の様々な事柄にも密接に対応してくれる『赤い守護神』

SUGO行きの数日前、テイスト・オブ・ツクバの観戦に行った際、BSのタイヤサービスに行き、前述のタイヤの件を中村氏に相談すると、「確かにうちには細いサイズの設定の17インチラジアルはないですが、BT-39SS、フロント90、リア120サイズの、前後とも細めのレース対応のバイアスタイヤの組み合わせを使ってみてください。私も当日SUGOにいますから」という、心強いお言葉。

11月7日の朝、SUGOのパドックに到着後、すぐにGSX-Rライスポ号のホイールを、全日本選手権の記者会見などが行なわれるブリーフィングルームの階下にある、ブリヂストンタイヤの常設のサービスに持ち込みました。すると中村氏とスタッフが即座に交換作業を開始。あっという間に真新しいBT-39SSが、ライスポ号の前後ホイールに装着されました。

SUGOのタイヤサービスで、ライスポ号のホイールを受け取り、タイヤ交換を行なうブリヂストンの中村さん。あっという間に作業は完了

交換したタイヤの違いを探る

こちらは交換後のBT-39SSフロントタイヤ(90/80-17)。交換前の100サイズ(100/80-17)と比べ、かなり細くシャープになった印象。果たしてフィーリングの違いは?

いよいよ久しぶりのSUGOを走行。3コーナーの先のピットロードの出口から、緑豊かな広大なコースに飛び出すと、日常の雑念がすべて吹き飛ぶ気がします。

この日は快晴ですが、少し風が強い。まずはサイズダウンしたタイヤの、コーナーでの感覚の違いを探ります。フロントタイヤは多少インに早くつく傾向が見られますが、切れ込むような動きはない。リアも落ち着いていて、シフトダウン時にバックトルクがかかったときのグリップの伝わり方も良好。立ち上がり時に、最大グリップから大きくスライドすることもなく、粘り強く加速してくれます。

前後BT-39SSを装着したGSX-Rライスポ号でSUGOの2コーナーを走る市川。想像していたよりはるかに安定感があった。条件がいい日にもっと攻めてみたい

『前後バイアスは跳ねる』という話を聞いたことがありますが、いい意味でイメージと違う感触。しかし、SUGOの小排気量レースの名物、シケインを使用しない全開で飛び込む最終コーナーでは、バイクを傾けていくと、ハンドルやカウルに高周波で伝わるような、細かい振動が伝わってきました。ですが、この現象は、ハンドルをしっかり保持したり、サスセッティングでもある程度解決するレベルだと思いました。

では、肝心のストレートの加速、トップスピードの方はどうなのかというと、この日は午後に向かうにつれて、どんどんコースに強風が吹き付け、バイクの調子はいいのに、まるで空気の壁があるかのように、最高速は条件のいいときより10kmも遅い。木々の中を走り抜けるバックストレートは、路面に枯葉が散乱しているような状況でした。

全開でシケインなしの最終コーナーを立ち上がる市川。この日の風はすごかった。風速も常に10mを超えていた。路面に枯葉が落ちているが、走行中はこの3倍くらい葉が舞っているように感じた

オフィシャルが赤旗でコースを一時的にクローズし、スイーパー(路面清掃車)で作業を行ないますが、走り出すとまた強風と枯葉の中、しかし注意すれば走れなくはないので、もうタイムは期待せず、今年最後のSUGOをできる限り楽しもうと思いました。BT-39SSのSUGOテストはまた来年、改めて行なうつもりです。

何度かコースインに並んでいると、今年の全日本のJ-GP3クラスで、終盤戦にかけて大活躍し、雨の鈴鹿で独走優勝を果たした中谷健心選手が隣に。彼は翌日から二日間、知人のチームで耐久レースを楽しむとのこと。かつて自分が秋ヶ瀬サーキットでポケバイレースを見物していたころ、まだ小学生ライダーで小さかった健心と、パドックでスケートボードやBMXで遊んだこともありました。

コースイン直前、中谷健心選手と再会し、高揚する市川。必需品のダブルオーグラスギアの眼鏡をかけ忘れており、この後すぐにピットインすることに。大躍進の若手と困ったおじさんだ

立派になった中谷選手と、こうしてSUGOで一緒に走行できるのは感慨深いものがあります。ロードレースは危険な場面もあり、悲しいこともありますが、たくさんの人たちと大きな喜びを共有できる、最高のスポーツだと改めて実感しました。

 

著者紹介
市川 拓 (いちかわ たく)
1970年東京生まれ。20代のころから立体オブジェを制作し、映画やドラマの美術セットや撮影用の怪獣の着ぐるみも手掛ける。90年代にWGP250ccの畠山泰昌選手のデザイナー兼ヘルパーとしてグランプリに同行した。モトクロスレースの経験あり。

撮影
石崎伸樹
神戸秀明
市川 拓

協賛各社
アライヘルメット
ウエストパワー
MHプロダクツ
スズキ株式会社
クラブサークル
J-Trip
STOMPGRIP有限会社エム
スポーツランドSUGO
ダブルオーグラスギア
hit-airプライドワン
ブリヂストン
ベスラ株式会社
ベビーフェイス
ベルレイオイル
マーキュリープロダクツ