ロードレースを支える人々1
有限会社エム 代表 三保田好一(みほたよしかず)さん

全日本ロードレース選手権のパドックで、あちこちのライダーを忙しく訪ね、走行セッションが始まると各選手のピットアウトを見守る、一見、研究者風の壮年の男性がいる。男性の名は三保田好一。埼玉で36年もの長きにわたり、オートバイの販売、アフターパーツの開発も行ない、バイク関連の事業では海外にも幅広くネットワークを持つビジネスマンでもある。多忙でありながら、全日本ロードレースの現場には毎戦必ず足を運び、自社でサポートするライダーたちを近くで見守る三保田さん。そんな三保田さんに、ご自身のロードレースとの関わりや思いを聞いた。

ライディングスポーツ(以下RS)
「三保田さんご自身もレースを走られていたんですよね?」

三保田さん
「そうです。若いころ、筑波のバトラックス3時間耐久の第1回大会(1984年に開催)に、RZ250の初期型で出場しました。最初の年は予選落ちで、翌年の第2回大会のときに、地元の友人の堀良成(ほりよしなり。後に全日本GP250で活躍。ヨーロッパの国際レースにも挑戦した選手)と組んで出場して。堀と二人で雨の決勝を走ってやっと完走。その後は自分も国際A級へ昇格を目指してレースを続けていたんですが、大ケガしましてね。A級昇格できるポイントを積み重ねていたんですが、その時点でライダーを引退しました。レースを走らなくなった後、1989年からこの場所(埼玉県越谷市)で、バイクショップを開業しました。そのときから変わらず、店の名前も『Mファクトリー』です」

埼玉県越谷市にあるバイクショップ『Mファクトリー』。三保田さんが展開するビジネスの本拠地だ

RS
「有限会社エム、そしてMファクトリーの現在の業務を教えてください」

三保田さん
「まずオートバイ販売、メーカーを問わず原付スクーターからスーパースポーツまで、何でも扱っています。マフラーやエンジンパーツなど、アフターパーツのブランドも運営しています。そして、ダイノスターというオランダ製のシャーシダイナモ(車両を実走に近い状態に保ち、エンジンなどの性能を解析する設備)の代理店でもあります。エンジンパワー、駆動系など、多岐にわたって精度の高いデータ解析が可能で、いくつかの2輪メーカーやコンストラクターにもダイノスターを導入いただいています。この店舗の別棟にもダイノスターがあり、一般のお客様でも、車両を持ち込んでいただければ解析ができます。実はつい先ほどまで、全日本選手権に参戦している、あるトップライダーのマシンが持ち込まれて、ダイノスターにセットしてエンジンを回していたところなんです。そして最近は、『バイオアーマー』というバイクのメンテナンス用ケミカルのシリーズを開発しました。バイオアーマーはレースだけでなく、一般のバイクに乗っている方にも幅広い用途でお使いいただけます」

レースシーンで役立つ、様々なアフターマーケットパーツが並ぶ店内と、代表の三保田さん
オランダ製のシャシーダイナモ、ダイノスター。オートバイ、レーシングバイクの性能について、様々な解析が可能
有限会社エムで開発した、メンテナンス用ケミカル『バイオアーマー』。極圧潤滑剤、オイル添加剤、外装やヘルメットに適したコーティング剤などがあり、環境にも配慮している

RS
「全日本ロードレースの選手に対する、Mファクトリーのサポートの内容はどういったものでしょうか?」

三保田さん
「うちで開発している製品や、代理店として扱っている製品の提供、またそれらを実戦で、サポートライダーたちにテストをお願いしているような形ですね。近年はアメリカの製品で『ストンプグリップ』という、バイクの車体に張り付けて、ライダーとバイクの密着度を高め、ライディング時にホールドしやすくするビニール系素材のシートを輸入、販売していて、それをサポートライダーに供給しています。ストンプグリップがないとマシンを操れない、というライダーもいるくらいマシンのホールドに効果があります。あとは、電動ファンを装備した、ヘルメットラックもライダーに好評です。汗を素早く乾かし、ヘルメットを清潔に保てます」

マシンのホールド力を高めるビニール系素材のシート、ストンプグリップ。各車種用、汎用と、数多くのラインナップがある
ドット状の突起の形状や大きさも様々なバージョンがあり、ライダーの好みや用途によって選べる。街乗りバイクのユーザーも多い
電動ファン付きのヘルメットラックは、走行後のヘルメットの汗を素早く乾燥させる優れもの

RS
「サポートを行なっている主なライダー、チームを教えてください」

三保田さん
「まずJSB1000クラスでは、DUNLOP Racing Team with YAHAGIの長島哲太選手、KRP三陽工業&RS-ITOHの菅原陸選手、加賀山就臣選手とは付き合いも長くて、JSB1000のTeamKAGAYAMAのマシンだけでなく、テイストオブツクバで彼自身が乗る鉄フレームの隼にもストンプグリップが装備されています。そしてST600クラスでは長尾健吾選手、J-GP3クラスでは尾野弘樹選手、岡崎静夏選手などが主なサポートライダーですね」

RS
「この会社では、台湾での事業も以前から長きにわたって行なっているそうですが、台湾のバイクシーンのことなど、ご存知でしたら聞かせてください」

三保田さん
「アフターパーツの開発などを以前から台湾で行なっていて、近年では現地でクシタニの直営ショップの立ち上げもお手伝いしました。台湾では日常の交通手段として、スクーターの普及率がとても高く、若い女性が通勤でスクーターに乗るのも一般的で、バイクウエアや安全に対する意識も高いです。MotoGPライダーのレプリカヘルメットを被ったカッコいい女性が、スクーターでクシタニショップを訪れて、ライディングジャケットなどを買っていくのはよく見る光景です。スクーターレースも人気があって、台湾のテレビの民放局で中継が放送されたこともあります。ただ、日本のような大きなレーシングコースがなく、バイクやレースの人気は高いんですが、全日本のようなロードレースが開催されていないんです。そこがお国独特の事情という感じですね」

RS
「最後に、三保田さんが現在の日本のバイク業界や、全日本ロードレースについて、『こうしたい』という希望や展望はありますか?」

三保田さん
「自分が考えるのは、何よりも全日本ロードレースの継続です。全日本がなくなってしまったら困るし、我々にとってそんな寂しい話はないですよね。ファクトリーチームがあって、強いプライベーターが集まって、そういう華やかな全日本を、まずは続けていくこと。うちのような小さな会社ができることは少ないけれど、ライダーへのサポートであるとか、そういったことでレースの世界を支えていきたいと思っています」

ロードレースを愛し、ライダーを気遣う三保田さんは、これからもサーキットに立ち、レースを支える

三保田さんほど長くレースシーンに身を置いている人物が、大きな理想ではなく、「まずは継続」と語る。レースというものがどれだけの労力や情熱が必要か、身にしみて理解しているからこその言葉だと感じた。レースを愛する三保田さんは、これからも全日本ロードレースのパドックで、ライダーたちを気遣っていることだろう。

有限会社エム